2018年10月21日午後、台湾で深刻な鉄道事故が起きました。台東行きのプユマ号が新馬駅付近(宜蘭県)で脱線・転覆したのです。筆者もよく通る場所、よく世話になっている列車による痛ましい事故に、落ち着かない気分になりますが、あえて冷静になって備忘録的に書いておきます。
リーズナブルな鉄道
今回事故が起きた宜蘭県は、台北方面と台湾東部の花蓮や台東などを結ぶエリアです。花蓮にも台東にも空港があり、台北松山空港との間に毎日飛行機が飛んでいますが、料金を比べると、花蓮が4倍、台東が3倍という開きがあります。プユマ号などの特急は、所要時間は飛行機の2~4倍となるものの、多くの人たちに支持されています。
プユマ号=2016年9月10日、台中駅
(写真はいずれも松田良孝撮影)
台北-台湾東部の交通比較
特急:所要 約2時間 ・料金 440元(約1600円)
飛行機:所要 50分 ・料金1663元(約6000円)
【台北―台東】
特急:所要 約4時間 ・料金 783元(約2800円)
飛行機:所要 1時間05分 ・料金2280元(約8300円)
人気の観光エリア
台湾東部の海岸線や池上米で知られる農村地域など美しい景色を眺めながら旅をしたいという人も筆者だけではないはずです。タロコ峡谷を筆頭に海外にも知られた観光スポットがあり、最近では台東への関心も高まっています。実際、日本のみならず、欧米の人たちにとっても台湾東部は人気の観光エリアとなっています。今回の事故でも、負傷者の中に米国籍の人がひとり含まれていました。
タロコ峡谷の燕口子=2015年7月30日、花蓮県新城
台東の熱気球フェスティバル=2017年7月1日、台東県鹿野
山と海の台湾東部
台湾では主要な都市を結ぶ高速バスが発達していますが、それは平地が広がる西部エリアの特徴といえます。高速1号線など高速道路網が発達し、路線展開が比較的容易というわけです。
これに対して、今回問題になっている東部エリアは急しゅんな山がそのまま海に落ち込むような海岸線が長く続き、地形的な要因もあって道路網の発達は西部に後れを取ってきました。主要ルートの国道9号にしても、蘇澳―花蓮間の難所を通る蘇花公路を例に挙げるまでもなく、大雨やがけくずれなど常から自然災害のリスクにさらされているのです。
今回のケースでは、けが人の収容先は宜蘭県の医療機関となりましたが、台湾では「医療資源が十分ではない」と指摘する報道がありました。また、筆者の知人(日本人)は、花蓮に住む方(台湾人)の指摘として、事故現場がさらに南側だったら医療資源もさらに乏しく、救援に向かえる車両も少なくなっのではないかとコメントしています。(この段落は2018年10月22日12時27分追記)
加えて、西部には新幹線も通っています。利用者の選択肢は西部地区と東部地区とでは大きな開きがあり、鉄道に対する依存度は東部で相対的に高くなっていきます。
台湾東部は山が海まで迫った地形が特徴だ=2018年10月16日=花蓮県豊浜郷芭崎
週末というタイミング
台湾の人たちの生活パターンのなかには、週末に動くというものがあります。台北など都市部に暮らす人が週末を利用して郷里に帰ったり、郊外へ1~2泊または日帰りのショートトリップに出たりするわけです。
今回の事故では、乗客の中に台北方面から台東に戻ろうとしていた家族連れや学校の団体が巻き込まれたという報道がなされています。このように事故で直接被災するケースに加えて、鉄道路線の不通によって、花蓮・台東方面から台北などへ戻ろうとする人たちが足止めされ、主要駅が混乱したことも報じられました。事故の影響が広範に及んだ所以がここにあります。
花蓮駅の観光客=2018年4月17日