「この一杯のうまさのために。」
あのときは、まったくいいタイミングでした。
7月下旬、とある仕事の視察で台北を歩いていた時のこと。その日最後の訪問先は台湾総督府の松山煙草工場をリノベーションした松山文創園区で、最近の台湾を象徴するようなデザインや雑貨のエリアをつまみ食いするようにして歩き、ではこれから、壁のようにそびえ立つ誠品に入ってみましょうか、クーラーも効いているよ、きょうは本当に暑かったなぁ、というときに、その幟は立っていました。
「この一杯のうまさのために。」
そう。言わずと知れた、なのか、分かる人には分かるなのかははっきりとしないオリオンビール。
移動販売式の自動車とテントを組み合わせた売店が出ていて、その前にオリオンビールの幟が立っていたのです。お値段は1杯100元。日本円にすると、ワンコインで余裕でお釣りがくるような具合です。
オリオンビールが台湾で伸びているという話は聞いていましたが、不意打ちを食らうような感じでお馴染みのキャッチフレーズを目にするとは、まったく予想していませんでした。
地方都市、虎尾でも
この1回だけなら、わざわざオリオンビールのことを書いてみようとは思わなかったのですが、10月下旬にも台湾でオリオンに遭遇しています。場所は台北から遠く離れた雲林県虎尾。お世辞にも便利なところにあるとはいえないものの、12月1日に台湾新幹線の雲林駅の開業を控えています。
その店には、「やんばるくいな」とか「泡盛」と書かれた暖簾がかかっており、入り口の軒先にオリオンビールの提灯が下がっていたのです。
オリオンビールさん、ずいぶんとガンバッテイルということなのでしょう。
虎尾は、サトウキビ工場を抱える「糖都」でもあり、沖縄と似た親しみがありますが、実際問題として消費のポテンシャルは台北とは比較になりません。その虎尾でオリオンビールに遭遇するとは、こちらも予想外のことです。
お酒の飲み方、変わったの?
なぜ、ビールにこだわってこんなに書いているのか。
それは、台湾ではあまりお酒を飲まないという印象が私にはあるからです。10月末に台南である集まりに参加し、それはけっこう大きな会合だったので、終了後には食事会も開かれたのですが、お酒はなし。その前の日の晩には顔合わせの小ぢんまりとした食事会がありましたが、そのときもノン・アルコール。「お酒はどうしますか?」と尋ねられることもない。
これは非礼でもなんでもなく、台湾ではごく当たり前に行われていることで、私も最近はノンアルコールの食事会に驚くことはなくなりました。
だから、こそ、それがオリオンでなかったとしても、台湾でビールの存在を感じられる機会に遭遇すると意外な感じがするし、その機会が増えているようにも思います。冒頭で書いた視察の時には宜蘭にも行ったのですが、駅のそばでコンテナをラッピングしたような台湾ビールの広告を目にしました。
あれ、台湾の人って、こんなにお酒好きだったっけ?
先月、台北で知人の大学院生と食事をしたときには、わたしに付き合ってくれた台湾人3人のうち、2人はためらわずに飲み、もう1人は普段は飲まないけれども、少しだけお付き合いしてくださいました。
アルコールに対する嗜好も変わりつつあるかな。オリオン探しと同じくらい面白いテーマになりそうです。