旧2月2日の2021年3月14日、土地神の一種、土地公の誕生日にちなむ祭祀が石垣島で営まれました。石垣島で執り行われる土地公の祭祀といえば、旧8月15日の土地公祭がよく知られていますが、今年は、石垣島名蔵地区に建立された土地公廟で初めて誕生日の祭祀が行われたのです。
こんもりとお供え
この日の祭祀は、午前11時ごろから約2時間行われ、20人ほどが参加しました。この廟で行われる本格的な祭祀としては、2020年10月に行われた旧8月15日の祭祀に続いて2度目となりますが、人数は減っています。前回は同じ日に琉球華僑総会八重山分会主催の土地公祭があり、その参加者の多くが土地公廟での祭祀に流れてきたために参加人数も多くなったのです。20人という数字は決して少ないものではないでしょう。(石垣島の土地公廟で開かれた2020年の土地公祭はこちら)
大小6つのテーブルには、こんもりとお供えが並びました。「三牲」と言われる豚、鳥、魚の供え物のほか、誕生日を祝うためという殻を赤く塗ったゆで卵、長寿につながるそうめん、鶏肉を煮込んだ麻油鶏、ビーフン、油飯、饅頭などなど。豚、鶏、魚の「三牲」ももちろん供えられました。フルーツケーキも彩を添え、集まった人の別腹に収まりました。
参加者の中には、お供えが集まらないのではないかと心配して、市販の料理を買い込んで用意してきた人もいたのですが、これは杞憂に終わり、台湾風の伝統的なお供えと、石垣島のスーパーで売られているパック入りのごはんが同居するハイブリッドな誕生祝を土地公に贈ることができたのです。
冥銭を焼く
YouTubeで爆竹
ハイブリッドという点は、祭祀を支えるモノたちにも当てはまります。石垣と台湾を結ぶフェリー航路が途絶えて10年以上が過ぎ、祭祀に必要なモノを台湾から手に入れることが難しくなっていますが、とりわけ入手しづらいのが爆竹です。火薬のため、飛行機で持ち帰れないのです。この日の祭祀では、YouTubeに投稿されている爆竹の音の動画を再生して雰囲気を盛り上げ、お経もやはりYouTubeでといった具合にスマホを活用。焼いて供える冥界のお金は、沖縄の「ウチカビ」と台湾で使われる紙銭が両方用いられました。伝統とIT、八重山と台湾がうまい具合に同居していたのです。
この日は、自宅で土地公の誕生日を祝う人もいました。彰化県出身の曽根春子さん(79)の場合、「三牲」を2セット用意しました。1セットは土地公廟に供えるため、もう1つは自宅の土地公に供えるために。
継承の形に関心
このように、個々に続けられている信仰の営みのことを、台湾系2世の男性は「台湾の残り火」と表現しました。石垣島で営まれる台湾系の祭祀として土地公祭が定着したのは、こうした残り火を絶やさないよう、薪をくべ続けてきた人がいたからに外なりません。
祭祀の会場で参加者の話に耳を傾けてみたところ、どうやら、土地公への信仰をどのように引き継いでいったらいいのかという点が共通の関心事になりつつあるようです。その解決策のひとつとして、石垣島の土地公廟に期待を寄せる人がいるのは事実です。
石垣島に住む台湾系の人たちがすべて土地公の祭祀に参加するわけではありません。台湾出身者に対する攻撃や偏見によって「台湾」というものを忌避するようになり、土地公祭から離れてしまった人もいます。こうした人の中にも、台湾系の人たちが自前の廟を持つほうがいいと考える人はいます。
石垣島で営まれている台湾由来の祭祀はどうなっていくのか。今後も考えていきたいと思います。