台湾沖縄透かし彫り

沖縄を歩いていると、台湾のことを感じることがあります。とりわけ、石垣島などの八重山地方では、そのまんまの台湾に出会ってしまうこともあります。では、台湾へ行ったらどうでしょう。やはり、沖縄を感じることがあり、かつて石垣島から移り住んでいった人たちと足跡を見付けることもあります。だけどそれは、薄皮を一枚剥いだようなところに隠れていることがほとんどなのです。

 沖縄を歩いていると、台湾のことを感じることがあります。とりわけ、石垣島などの八重山地方では、そのまんまの台湾に出会ってしまうこともあります。では、台湾へ行ったらどうでしょう。やはり、沖縄を感じることがありますし、石垣島の痕跡を見付けることもあります。だけどそれは、薄皮を一枚剥いだようなところに隠れていることがほとんどなのです。深く掘りすぎると、原形をとどめなくなってしまうかもしれませんね。元の姿をとどめつつ、だけど、内側に潜むものもちゃんと見える。そんな透かし彫りの方法で、台湾と沖縄を見ていきましょう。   松田良孝のページ | Facebookページも宣伝

台湾人が台湾人に出会う旅 台湾から八重山へ

八重山と台湾」への入り口

 

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三合院風のたたずまいを残す浅野さん宅を訪問した台湾の旅行客。

「なつかしい」「おばあちゃんの家のにおいがする」などといった感想が上がった。

右端は説明に当たった王滝志隆さん

=2016年10月21日午前、石垣市登野城嵩田で松田良孝撮影

 

 台湾出身の玉木玉代さん(87)=石垣市新川=とその家族の姿を追った台湾のドキュメンタリー映画「海の彼方」(黄嬴毓監督、原題『海的彼端』)の上映に合わせた旅行ツアーが2016年10月19日から4日間、石垣島などで行われました。台湾の旅行客20人余りが中華航空の石垣台北直行便で八重山入りし、八重山に住む台湾系の人たちと交流したり、ゆかりの地を訪れたりしました。

 台湾の旅行会社、風尚旅行社(本社台北)が実施した映画とのコラボレーション企画です。同社の担当者によると、来年、中華航空の石垣台北直行便が運航されれば、同様のツアーを行う可能性があるそうです。

 八重山と台湾の関係を過去から今、未来へとトータルに理解していくうえでも、このような旅は意義深いものだと思います。4日間の旅程で八重山と台湾の間にある密接な関係をすべて理解することはできませんが、その関係へと関心を向けるうえで、大切なきっかけを提供してくれるのがこのような旅だと思うからです。

 

将来見据えた「仕組み」必要

 

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旅行でやってきた台湾人の子ども(右)と、石垣島に住む台湾人4世

=2016年10月21日午後、石垣市登野城嵩田の島本農園で松田良孝撮影

 

 実際にツアーに同行してみて、それ以前からずっと気に掛かっていたことをあらためて意識させられました。それは「八重山に住む台湾人のなかから、台湾語を話せる人がほとんどいなくなってしまったとしても、台湾からやってきた人たちに八重山に住む台湾の人たちのことを過不足なく伝えることができるか」という点です。

 今回のツアーでは、訪問先で八重山に住む台湾の人たちにご助力をいただきました。

 台湾農業者入植顕頌碑では王滝志隆さん(62)、三合院のようなたたずまいをみせる浅野さん宅の紹介では王滝さんと吉本美雪さん(65)、島本農園では島本哲男さん(65)が説明役を務めてくださり、台湾からやってきた人たちと直接言葉を交わしてくださいました。もちろん、私も日本語を通訳してもらいながら訪問先についてそれぞれ説明をする準備はしていましたが、通訳抜きで直接やりとりをする、しかも、台湾の人同士で直接やりとりをするほうが盛り上がるに決まっています。

 しかし、今回のような旅を10年先、20年先に定番のツアーとして定着させるには、八重山に「今」、台湾語を話せる人たちがいるということに安住していてはいけません。台湾語が無理でも、せめて中国語で八重山の台湾人のことを伝えられるような仕組みをつくる必要があると思うのです。

 

「人」と「体験」と

 

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マンゴー農園で説明をする台湾人2世の島本哲男さん

=2016年10月21日午後、石垣市登野城嵩田の島本農園で松田良孝撮影

 

 台湾の人たちが八重山を訪れ、そこに暮らす台湾の人たちと出会う旅なのですから、一番大切なのは「人」ということになります。

 しかし、言葉による意志の疎通には、もしかしたら限界が来るかもしれない。

 では、どうするか。

 今回のような旅が行われると知ったとき、私が一番盛り込みたいと思ったメニューは「体験」です。八重山で暮らす台湾人のお宅にお邪魔し、たとえば青果物卸の仕事を手伝ってみる。好みは人によりけりですが、トラックに一緒に乗り、野菜や果物の入った段ボール箱を取引先に持っていくという作業を体験してみてもいい。あるいは、広い畑に行き、パインやマンゴー、サトウキビの農作業に汗を流してみる。

 言葉ですべてを理解することができなかったとしても、その人たちの暮らしの一端を垣間見ることで得られることは少なくないのではないでしょうか。

 この台湾人は、なぜ八重山でパインやマンゴーを作っているのか。

 この台湾人は、なぜ八重山で野菜を配って歩いているのか。

 なんということのない疑問から、八重山に住む台湾の人たちがたどってきた足取りが見えてくるかもしれません。