台湾沖縄透かし彫り

沖縄を歩いていると、台湾のことを感じることがあります。とりわけ、石垣島などの八重山地方では、そのまんまの台湾に出会ってしまうこともあります。では、台湾へ行ったらどうでしょう。やはり、沖縄を感じることがあり、かつて石垣島から移り住んでいった人たちと足跡を見付けることもあります。だけどそれは、薄皮を一枚剥いだようなところに隠れていることがほとんどなのです。

 沖縄を歩いていると、台湾のことを感じることがあります。とりわけ、石垣島などの八重山地方では、そのまんまの台湾に出会ってしまうこともあります。では、台湾へ行ったらどうでしょう。やはり、沖縄を感じることがありますし、石垣島の痕跡を見付けることもあります。だけどそれは、薄皮を一枚剥いだようなところに隠れていることがほとんどなのです。深く掘りすぎると、原形をとどめなくなってしまうかもしれませんね。元の姿をとどめつつ、だけど、内側に潜むものもちゃんと見える。そんな透かし彫りの方法で、台湾と沖縄を見ていきましょう。   松田良孝のページ | Facebookページも宣伝

『スポットライト 世紀のスクープ』を観る

地方紙と地域社会

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 地方紙と地域社会の距離。

 本作の問題提起はこの点から出発する。

 主人公は、カトリック教会の暗部を暴く新聞社の特別報道チームである。卓越した「個」の能力とチームに示される明確な方向性でもって世に出た記事は、読者の好評を博すという筋書きで進む。ポイントは舞台が地方紙だという点だ。メディアの再編や宗教の権力性などからも観ることはできるが、私は地方紙が置かれている状況に注目し、強い興味と共感を覚えた。

葛藤

 舞台となる地方紙は、読者の過半数がカトリックの信徒という設定である。地域社会を象徴する存在としてカトリック教会は位置付けられているのだ。

 地域社会は地方紙を支える基盤であると同時に、その権力性は新聞メディアが批判すべき対象である。地方紙の記者たちは、地域社会との共存を考えるあまり、つかんだネタをどう扱うか悩むし、書くべきか書かざるべきかをめぐる葛藤と無縁ではいられない。この葛藤は、作中ではそれほど重視されていないようにみえるが、地方紙の現場で働く記者たちは多かれ少なかれこの点で己と向き合うことを余儀なくされている。ときには、家族や親しい人たちに対してペンで批判をしなければならないこともあり、祖母が熱心なカトリック信徒というチームメンバーの描写には、身につまされるものがあった。記者たちもまた地域社会の一員なのである。匿名性が希薄で、実名性の濃厚な地域社会の、である。

見誤り

 いわゆる「タレ込み」への対応も難しいところだ。地方紙に限らないことだが、新聞社にもたらされる情報にはさまざまなものがある。しかし、スタッフの人数や紙面のボリュームなどによって紙面化できる記事の分量には限界がある。無限にある情報の中から、記事として読者に届けるべきものとそうでないものを区分けしなければならない。手を付けることがないまま、放置される情報もあるのだ。

 本作のなかでも、過去に情報提供をしたことのある犠牲者や法曹関係者が「なぜあのとき書かなかったのか」という趣旨の、抗議めいた発言を記者にぶつける場面がある。チーム統括者の記者が、今まさにチームとして追っている教会の暗部についてかつて記事を書いたものの、当時はその意味を見誤り、掘り下げの浅い「ベタ記事」に終わったエピソードが登場するが、とてもではないが他人事とは思えず、落ち着きの悪い思いがした。こうした失敗を経験している記者は私だけではないだろう。たとえ、自分では失敗していないと言い張ったとしても、こうした経験を同僚やライバルが犯してしまったというケースを見聞きしたことはあったはずだ。

特ダネの陰に

 本作は新聞社の成功譚だが、気になるのは、チームが記事にせずに追及をやめてしまった地元警察のネタがどうなったのかということである。カトリック教会の暗部を明らかにするという点ではもちろんチームは役割を達成したわけだが、その陰には明らかにされないままになっている事実があるかもしれないということになる。すると、「なぜあのとき書かなかったのか」という厳しい叱責が別の所から別の立場から投げ掛けられ、それを代替わりした後のチームが追い…

 となるかもしれないが、地方紙や新聞の特別報道チームのような存在がこの先もずっと続くかどうかは限らない。本作では、メディアの再編に伴って登用された編集責任者がカトリック教会の暗部に迫るよう求めたことで物語は始まるが、再編の方向性によってはメディアが担うべき権力批判の役割があいまいにされることもあるのだ。

 地方紙の今とこれからに関心を持たずにいられない私としては、緊張し、また、ときに目をそらしながらスクリーンを見つめ続けた2時間余りである。

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