西表島の大自然
樹木が絡みついているものの、崩れずに残っているトロッコレールの支柱
(2016年6月3日、西表島の宇多良炭坑跡、松田良孝撮影)
西表島といえば、マングローブ林やイリオモテヤマネコ、カンムリワシなどに代表される亜熱帯の大自然が観光客を魅了してやみません。西部を流れる浦内川をカヌーでさかのぼってみましょう。支流の宇多良川に入って間もなくすると、70年ほど前に役割を終えたレンガ積みの支柱に繁殖力旺盛な植物が絡み付き、しかし、今も崩れることなく立っているところにたどり着きます。
この支柱は、1936年に丸三炭坑宇多良鉱業所として開坑した宇多良炭坑で使われていたもので、往時には上部にレールを渡し、石炭を満載して坑内から貯炭場に向かうトロッコを走らせていました。この炭坑では、過酷な労働条件のなかで、台湾からやってきた多数の坑夫たちが働いていたという側面あります。
揺れる国籍
植民地台湾から宇多良炭坑に働きにきた雲林県の女性の場合、坑夫たちが掘り出してきた石炭を選り分ける仕事に就いたのですが、一緒に連れてきていた娘がトロッコの事故に遭い、石垣島に運んだものの亡くなっています。女性はそのまま石垣島に移り住み、間もなく終戦。台湾が日本の植民地ではなくなったことに伴い、それまで日本国籍だった身分が変更されたのですが、自分自身ではそうと気付かず、米軍統治下の沖縄で突然外国人として扱われるようになりました。沖縄の台湾人は、植民地統治の終結や沖縄の日本復帰など歴史的な節目を迎えるたびにその国籍をめぐって翻弄されてきたのですが、この女性もそうしたケースに当てはまります。
翻弄された台湾人
宇多良炭坑跡には2010年6月、過酷な炭鉱労働の犠牲になった坑夫を追悼する「萬骨碑」が建立されました。「萬骨碑」は直接的には炭坑で亡くなった人たちを慰霊する意味がありますが、その先には、台湾と八重山のはざまで翻弄されてきた台湾人たちの姿も透けてみえるのです。
西表島を訪れることがあったなら、八重山の大自然に潜む台湾人の息遣いに耳を傾けてみてはいかがでしょうか。すると、亜熱帯の森で知られる西表島も、少し違ったように見えてくるかもしれません。