台湾沖縄透かし彫り

沖縄を歩いていると、台湾のことを感じることがあります。とりわけ、石垣島などの八重山地方では、そのまんまの台湾に出会ってしまうこともあります。では、台湾へ行ったらどうでしょう。やはり、沖縄を感じることがあり、かつて石垣島から移り住んでいった人たちと足跡を見付けることもあります。だけどそれは、薄皮を一枚剥いだようなところに隠れていることがほとんどなのです。

 沖縄を歩いていると、台湾のことを感じることがあります。とりわけ、石垣島などの八重山地方では、そのまんまの台湾に出会ってしまうこともあります。では、台湾へ行ったらどうでしょう。やはり、沖縄を感じることがありますし、石垣島の痕跡を見付けることもあります。だけどそれは、薄皮を一枚剥いだようなところに隠れていることがほとんどなのです。深く掘りすぎると、原形をとどめなくなってしまうかもしれませんね。元の姿をとどめつつ、だけど、内側に潜むものもちゃんと見える。そんな透かし彫りの方法で、台湾と沖縄を見ていきましょう。   松田良孝のページ | Facebookページも宣伝

西表炭坑に台湾人の足跡を訪ねる

リユースの弁当箱

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カヌーに乗る前に黒紫米のおにぎりなどで腹ごしらえ

(2016年6月3日、竹富町西表島の浦内川観光、松田良孝撮影)

 西表島西部の浦内川河口付近からカヌーに乗り込み、支流の宇多良(うたら)川へ向かう前、カヌーステーションで腹ごしらえ。手作り感のある弁当箱を開けると、黒紫米のおにぎりなどがほどよいボリュームで詰めてあり、自然のなかに乗り込んでいく前の高揚感がさらに上がります。環境に配慮するために弁当箱は使い捨てにせず、すべて回収するという説明もあり、亜熱帯の森とどう向き合うべきか、くどくど言われなくてもおのずと理解することができました。

人生を変えてしまった炭坑

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宇多良炭坑跡。レンガ積みの橋脚跡にガジュマルが絡みついている。

右側は犠牲となった坑夫を慰霊する「萬骨碑」

(2016年6月3日、竹富町西表島、松田良孝撮影)

 2016年6月2日から6日まで実施した八重山台湾ツアーで西表島の宇多良炭坑跡を訪れたのは、1936年に採炭が始まったその炭坑で台湾人坑夫が働いていたことによります。坑夫たちに死を覚悟で逃亡させるほどの過酷な状況だったと言われる厳しい炭坑労働。逃亡の末に実際に死亡したケースもあるとされます。

 台湾から宇多良に渡ってきたことで、その後の人生が大きく変転することになったという台湾人もいます。

 現在も石垣島で暮らす雲林県出身の芳沢佳代さん(1936年生、台湾名・林全是)は家族で西表島に渡り、両親や兄は宇多良炭坑で働いていましたが、姉が炭坑のトロッコに巻き込まれる事故に遭い、その治療のために石垣島にやってきました。姉は1944年5月に死亡し、家族は台湾へ戻ろうとしたのですが、戦況の悪化で石垣島にとどまることを余儀なくされてそのまま終戦を迎えます。

 その後、台湾人の国籍は原則としてそれまでの日本から中華民国に変更されることになったため、知らぬ間に中華民国籍となりました。石垣島は米軍に統治されることになったために、外国人として生活することになったのです。戦争が終わるまでの間は、日本国籍を持つ台湾人として日本の版図である石垣島で暮らしていたのですが、その状態は一変しました。

悲惨な歴史と観光で向き合う方法

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宇多良炭坑跡からの帰路、浦内川沿いでマングローブを観察した

(2016年6月3日、竹富町西表島、松田良孝撮影)

 このように、西表島の炭鉱は台湾人にさまざまな試練を与えたわけですが、現在は炭坑跡が観光資源として活用されています。宇多良炭坑跡は、レンガを積んで作られたトロッコレールの橋脚にガジュマルが絡みついた景観が独特の雰囲気を醸し出しており、カヌーで亜熱帯の森を楽しみながら上陸し、見学することが可能です。現地では、炭坑にまつわる歴史を説明するガイドも行われており、観光メニューとしての完成度は高いものがあります。

 ただ、島の自然をカヌーで楽しむ自然体験のメニューを済ませた後に、炭坑の悲惨な歴史に触れるという構成に難を覚える向きもあり、今回のツアーの参加者のなかには「炭坑の歴史について事前にしっかり伝えておいてほしかった」という要望を出される方もいました。それ相応の心づもりをしてから炭坑跡に行きたかったということです。学校の修学旅行には事前学習というものがありますが、これに当たるものを八重山台湾ツアーのなかではどのように、どこで、どの程度まで行うか。この課題をクリアすることができれば、旅は今まで以上に充実したものになりそうです。